甲武特急「スーパーしんげん」乗車記


・渋谷駅

若者で賑わう街、渋谷は古くから数多くの交通機関が乗り入れてくる多摩・横浜方面への玄関口でもある。

東京都心を周回する山手線、それに沿うように走る埼京線、その渋谷駅を起点にさらなる都心を目指す地下鉄、

西に位置する住宅街を目指す京王井の頭線や東急田園都市線、横浜を目指す東急東横線など、数多くの鉄道が所狭しと駅を連ねる。

 

そんな渋谷駅である看板を見つけた。「甲武線」と書かれたその看板に従って自由通路を歩く。

都心の駅であることは勿論のこと、朝の早い時間帯だけあって、かなりの乗客が行き来するその通路を歩いていくと、

そこに目指す甲武電鉄線の改札口があった。

 

改札の向こうに並ぶくし型のプラットホームには、各方面からの電車がひっきりなしにやってくる。

どの電車も乗客をいっぱいにしてホームに入ってきて、ドアが開いたその瞬間、数百とも一千数人ともつかぬ乗客が一気にホームに溢れ出る。

そんな大都会のターミナルの賑わいをよそに、ホームの一角に佇む存在。甲武電鉄が誇る看板列車「パノラマライナー」の姿がそこにあった。

 

・乗車

乗車する列車は「スーパーしんげん1号」。渋谷駅を7時ちょうどに発車する最初の「しんげん号」である。

この30分ほど前にも特急が1本あるが、そちらは河口湖へ向かう「ふじやま101号」であり、

この「スーパーしんげん1号」こそが、事実上は最初の「しんげん号」といえるのだ。

この特急券をご覧になればおわかりのとおり、今回の「スーパーしんげん1号」は最新鋭特急車両15000系での運転となっている。

早速乗り込んでみる。指定番号は1号車の1A。誰もが夢見る展望席、それも最前部。まさに特等席だ。

やがてホームから発車メロディーの「ヤンキー・ドゥードル」が流れる。「アルプス一万尺」という歌詞でもおなじみの曲である。

発車メロディーがなり終わってしばらくすると、電車は驚くほど静かに動き出した。渋谷から甲斐の国へ。122.7kmの旅が始まった。

 

・車内

それでは今回の列車の旅をご紹介するにあたり、車内のおもな設備をご覧いただこう。

おわかりの通り、この15000系は観光客をメインターゲットとしている。

編成先頭の1号車には4人用のコンパートメント席が3室、4号車の中央には最大27人が利用できるラウンジを備えており、

ラウンジ部分に関しては、特急券さえ持っていれば誰でも利用することができるようになっている。

このラウンジ、中央に車販コーナーがあり、ちょっと小腹がすいた時にドリンクや軽食を楽しめるのも嬉しい。

この辺りを見れば、定期の特急運用のみならず団体臨時列車としての使用も想定した設計といえるだろう。

車内外のデザインはイタリアのデザイン企業・ピニンファリーナが担当しており、甲武一のグレードと快適さを誇っている。

 

・電車は都心を抜けて

渋谷駅を出ると、高層ビルの間を潜り抜けて富ヶ谷を通過。この辺りから電車は一気に地下に潜り代々木上原、笹塚、再び高架に上がって方南町と通過していく。

笹塚から三鷹中央までは複々線化の工事もたけなわで、2008年度には完成するということだ。

やがて風景は高層ビル群から一転して住宅街が連なるようになると、気付いた頃には電車は井の頭公園付近。渋谷で別れた京王井の頭線と一瞬の再会だ。

井の頭公園を通過すると新三鷹、三鷹中央と、三鷹の中心街を貫くように走っていく。

…さてこの「スーパーしんげん1号」は、その「スーパー」の名の通り速達性を向上させた特急である。

基本的に甲武特急は新三鷹ないし三鷹中央に停車するのだが、この「スーパーしんげん」だけは別で、

その速達性を損なわないために三鷹市内の駅はすべて通過してしまうのだ。

三鷹中央を通過するとすぐに複々線区間に入り、電車はグングンとスピードを上げていく。都内最大のハイライトである。

普通電車や快速電車を次々と追い抜き、府中を通過。中央自動車道を潜るとすぐに多摩川橋梁に差し掛かる。

多摩川を渡った先にある日野宿で複々線は終わり、線路も緩やかな上り勾配となっていく。

ここから先は多摩丘陵。日野宿のすぐ隣にある多摩平駅に隣接して、最大の車両基地である多摩平工場が見えてきた。

この15000系をはじめ、多くの車両がここをねぐらとし、また全ての車両がここで整備や検査を受ける。

多摩平をすぎると旭ヶ丘で、ここを通過した時点で電車は浅川を渡る。渡りきればそこは八王子市である。

最初の停車駅、八王子ももうすぐだ。

 

・いざ、甲斐の国へ

八王子駅はペデストリアンデッキに覆い被さるような構造の高架駅。ここでも多くの乗客が乗ってきた。

よくよく荷物を見てみればある客は大きなリュックに寝袋、と思えばある客はカメラ、ある客は釣竿…。

どうやら観光客のようだ。平日だというのにこれほどの観光客とは、やはり初夏の陽気に誘われたのだろうか?

 

電車は八王子を出ると一気にスピードを上げて住宅街を抜け、山間部に入っていく。進行方向左手に大きな湖が見えてきた。相模湖だ。

この辺りは「さがみ湖リゾート」の開発を甲武電鉄が中心となって行なっている。「さがみ湖ピクニックランド」も甲武系列だ。

甲武相模湖駅の手前では大きな高架橋の下を潜る。京王相模湖線である。この辺りの開発は甲武と京王のライバル合戦なのだ。

しばらくはトンネルとカーブの連続。ここを越えていくと、いよいよい電車は山梨県に入っていく。

上野原をすぎた辺りで、並走してきた中央線と別れ、さらに奥へと進む。ここには帝京科学大学があり、

ちょうど朝だったこともあって帝京科学大前駅のホームは電車から降りてきた学生でごった返していた。

そろそろ腹が空いて来たので、4号車のラウンジに行って朝食にしようか…。

 

・朝食

早速展望ラウンジに来てみれば、ソファーでくつろぐ観光客の姿がチラホラと見受けられた。

早速「鶏めし」を注文する。所謂駅弁のようなスタイルだが、私の腹を満たすにはちょうど良かった。

展望ラウンジから見える富士山を眺めながらの朝食であった。半分食べた頃にはもう、電車は大月駅を発っていた。

再び電車は速度を上げる。心なしかカーブの内側に向かって傾いているように感じる。車体傾斜装置が作動しているのだ。

しばらくカーブと勾配が続いた後、甲武最長のトンネルである「甲州笹子トンネル」を抜ける。

甲州笹子トンネルが貫通したのは1933年のことで、当時の技術と甲州電気鉄道の規模から考えれば、想像を絶する難工事だったであろう。

このトンネル工事の結果、曲がりくねった山道から解き放たれた電車は、高速運転が可能になったというわけである。

トンネルを抜けてしばらくすると甲府盆地に入る。3つ目の停車駅、甲武勝沼も近い。

勝沼といえばブドウである。そしてブドウから作られるものといえばやはりワインである。

このあたりにはサントリー、メルシャンなどといった大手酒造メーカーをはじめ数多くのワイナリーが点在する。

そういえば甲武にも、メルシャンがスポンサーになった「シャトー・メルシャン号」が走っているのを思い出した。

駅では、山梨線に乗り換えていく客も見えた。甲武勝沼を出るとあとは甲府盆地をひたすら西へと進むだけだ。

 

・旅の終わり、そして始まり

甲府盆地をひたすら西へ一直線に走っていくと突然、電車は高架橋に上る。身延線とのオーバークロスである。

この金手駅を通過する頃にはだいぶ電車もスピードが落ちてきた。巨大なビルが近付く。あれが新甲府駅だ。

電車はゆっくり、ホームに滑り込んでいく。観光客に混じって…出張だろうか、スーツを着たビジネス客が続々と降りていく。

この新甲府駅を出て中央線を跨ぐ。途中2つの駅を通過するとすぐに終着駅、湯村温泉が近付いてきた。

…最高速度130km/h、走行距離じつに122.7kmを1時間55分で走り抜けた「スーパーしんげん1号」はその旅を終える。

しかしこの15000系に休む暇はない。全ての乗客を降ろしたあと、こんどは都心へ向かうビジネス客をいっぱいに乗せて走り出すのだ。

甲武特急の最大の使命は都市間輸送と観光輸送。今回はその両面を垣間見ることが出来た。

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